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ATX電源ユニットの内部構成

パソコンに使われる電源ユニットは、スイッチング方式を用いているのでスイッチング電源といいます。スイッチングとは、回路のON-OFFを繰り返すことを言います。整流(交流から直流へ変換)した後、スイッチングを行い、変圧器で電圧を下げる仕組みになっています。特殊な設計でない限りは、ATX電源ユニットの回路設計はどの製品も同じです。基本的な内部構成を理解しておきましょう。

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電力変換の仕組みを理解

ATX電源ユニットはハッキリ言って消耗品であり、ひどく劣化すると電力不足などのトラブルを引き起こします。パソ兄さんの場合、使用頻度の高いパソコンに限っては2~3年経ったら不具合がなくても電源ユニットを交換します。トラブルに見舞われる前にさっさと片付けるタイプのユーザーです。

電源ユニット分解
そういうわけで、まだ使えたけど分解しました。低価格帯の電源ですが、ヒートシンクはまあまあ大型で良心的な設計でした。(ヒートシンク:写真では肋骨みたいなアルミ板。熱伝導で放熱する金属プレートのこと。)高価な電源ほど部品の実装密度が高く重量があり、逆に安価なものほど密度がスカスカで軽い。この電源の場合は、わりとスカスカなほうですね。

主要な回路

電源ユニットは、家庭用コンセントからの交流(AC)を直流(DC)に変換してPCパーツへと電源を供給するのですが、それまでに各回路を通過する過程があります。以下写真ではヒートシンクを曲げて内部を見やすくしました。

電源ユニットの構成写真分解
家庭用コンセントから来たACは電源ユニットの「入力回路」から入り、1次側・整流回路、Active PFC回路、1次側・平滑回路、スイッチング回路、トランス、2次側・整流回路、2次側・平滑回路を通り、この過程でDCに変換された電力はPCパーツへと送られます。順を追って役割をチェックしましょう。

入力回路~交流の入力とフィルタ

ノイズを低減するフィルタ
交流は電圧が波打ち、周期的に変化しています。まず最初にその入力されてきた交流電源を抑制する保護回路が「入力回路」です。またノイズを低減するフィルタが付いています。ここを通って、1次側・整流回路へ向かいます。この部分はフィルタ要素であり、直接、電源として機能するところではないので、安物では簡略化されます。部品としては以下のようなものがあります。

サーミスタ ⇒ 突入電流を抑制(※突入電流とは電源投入時の一時的な大電流)
ローパスフィルタ ⇒ 一定周波数より高い周波数を通さないことで、高周波ノイズを除去

ほかには、Yコンデンサ、チョークコイルなどで構成される。高価なものほど回路構成は複雑となり、安価なものでは簡略化されている。

1次側・整流回路

整流
入力回路の次は「1次側・整流回路」を通ります。ダイオードの性質を使って「交流を直流」に変換します(これを整流という)。整流回路を通ることで一方向に流れる電流となる(電圧が0~ピーク値の間で変動する脈流となる)。ここではまだ直流とは言いがたいところです。

PFC回路~「力率」を改善

PFC
そして平滑回路へ送る前に「力率」を改善するのが、PFC(Power Factor Correction)回路です。これはMOSFETやコイルで構成された回路です。力率とは「交流を直流に変換するための効率」のことです。高調波の抑制が法的に定められたので、PFC回路が導入されています。(古い電源製品にはPFC回路が無いものがある)。この回路もスイッチング回路の類です。

1次側・平滑回路~脈流を安定した直流へ

1次側コンデンサ
次は1次側・平滑回路を通ります。これは力率の悪化しやすいコンデンサ入力型の平滑回路なので、前述のとおりPFC回路で「力率」が改善されてから対応します。平滑回路は脈流を安定させる回路で、山のような波形である脈流を「直流のまっすぐに近い形」にしていきます。(つまり平滑化)。なお、コンデンサは電源出力に応じた容量が必要となります。(そのためひときわ大きいコンデンサである)。基本的にはアルミ電解コンデンサが搭載されます。

1次側コンデンサのポイント

故障率が低いので、日本メーカー製の105℃品が理想。ミドルレンジ製品ではすべて「日本製コンデンサ105℃品」というのが一般。安価なものでは85℃品であり、理論上では105℃品の1/4の寿命と少なくなる。ただ、2次側コンデンサよりは発熱があまり大きくないということで、85℃品という理由もある。

なお、負荷が高くなるのは1次側よりも後述する「2次側コンデンサ」の方である。
コンデンサについてはこちらで解説しています。

スイッチング回路~高周波に変換する

パワーMOSFETが一般的
次はスイッチング回路です。1次側・平滑回路で直流となった電力をパルス状の電力にします。ON/OFFの繰り返し(スイッチング)で、波状の高周波に変換。スイッチングにはMOSFET(電界効果トランジスタ=スイッチング素子)を使うのが一般的。MOSFETは発熱が大きいので、ヒートシンクに貼り付いています。ここは電源の変換効率に大きく影響する場所です。80PLUS認証の電源はここのクオリティが高いのでしょう。

制御部のスイッチング回路

PWM方式が採用-pulse width modulation-パルス幅変調-
ほか、スイッチング回路の制御部があり、MOSFETの制御には一定範囲の出力電圧を維持するためにPWM方式が採用されています(負荷変動や入力電圧変動などに対応)。制御用のチップがPWMコントローラです。 ※PWM:pulse width modulation-パルス幅変調

トランス(変圧器)~電圧を下げる

パルス状電力のトランス
次はトランスです。入力電圧を異なる電圧に変換するのがトランス(変圧器)です。ここで各PCパーツが必要とする電圧に近い電力を出力します。(複数の電圧を取り出すことができる)。

トランスから出るのはパルス状電力なので、再び直流にするために整流回路と平滑回路を通す必要があります。そのため「2次側・整流回路、2次側・平滑回路」を通すこととなります。

2次側・整流回路~再度、整流をする

整流回路
トランスの次は「2次側となる整流回路」へ。トランスからの電力はパルス状なので、再度、整流を行い、高周波の波状を直線に近い形へと持っていきます(再度、直流出力にする)。発熱が大きい部分なので、ヒートシンクに貼り付いた状態になっています。

2次側・平滑回路

LC回路
次は、直列のコイルと並列のコンデンサで構成されたLC回路で平滑化します。できるだけ交流要素のない真っ直ぐな直流へと持ってきます。

2次側コンデンサ

2次側コンデンサでは特に耐熱性が問われるので、105℃品が理想。1次側ほどの高耐圧のコンデンサでなくても構わない。(1次側のような特大コンデンサではない)。高速応答が求められることもあり、固体コンデンサが採用されることが望ましい。(写真のは安物なのでアルミ電解コンデンサ)。2次側コンデンサの性能は出力電圧の安定性に影響します。

以上が、電源ユニットの基本的な内部構造です。ここまで内部状況が分かれば高価な電源ユニットを納得して買えるのですが、なかなか知りえない箇所なのがネックですね。イメージ的には農作物に似ています。「安物はなるべく早く換装する、高価なものはそこそこ長く安定して使える」というのが鉄則です。

その他の部品

その他の部品である、「電源ユニットの基板、+5Vsb回路、ホットボンド」を解説しておきます。

電源ユニットの基板

紙フェノール基板
コンデンサやコイル、回路を搭載する基板。低価格帯では安価で加工しやすい紙フェノール基板、高価なものでは丈夫で加工しにくいガラスエポキシ基板が使われる。紙フェノール基板は強度が低く、熱に弱い。ガラスエポキシ基板は強度が強く、熱にも強いのでグラフィックカードやマザーボードなどで使われている。この写真のは、紙フェノール基板であり、曲げてみると簡単に反り返る。

故障による発火などのトラブルを防止

モニタ回路/安全回路

するための監視回路。安価な電源では回路を省略したり、部品の品質を落とす場合が多い。安価な電源は高価なものと比べ、安全性が劣ることを考慮すべき。

+5Vsb回路(スタンバイ用のトランス)

スタンバイ電源
スリープなどで使われるスタンバイ電源は、メインの電源とは回路が分かれている。省エネ設計が進む過程で、分かれる設計となった。これも同じくスイッチング回路。

ホットボンド

パソコンの鳥の糞みたいなホットボンド
鳥の糞のようにだらしなく塗られているのが、ホットボンド。部品を安全に固定するために使われるが、熱に強く通電もしないので、だらしなく塗られていても問題ない。

こちらも参考に。XPS 8300に搭載されていたATX電源を分解(実施:2018年)

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