清水宗治の高松城

岡山市北区高松にあった備中高松城を登城した（2021年9月）。備中松山城を拠点としていた三村氏の家臣「石川氏」が築いた城であるが、築城時期は不明。1575年、備中兵乱で三村氏および石川氏が毛利氏に滅ぼされる。もともと清水宗治は石川氏の重臣であったが、毛利氏に加担し高松城に入城した。1582年、羽柴秀吉の備中高松城攻めで清水宗治は切腹。その後、宇喜多氏の家臣「花房正成」が入城（後に徳川氏家臣になる）。1600年、関ヶ原の戦いの後、花房職秀（はなぶさもとひで-改名後：職之）が城主となり城域は整備されたが、一国一城令によって廃城となったと考えられる。

備中高松城水攻め

1582年、羽柴秀吉は主君・織田信長の命で中国攻め（毛利攻め）の先鋒を任され、備中国南東部に侵入する。毛利方には備中境に配置された境目七城（高松城、宮地山城、冠山城、加茂城、日幡城、庭瀬城、松島城）で備えた。秀吉は毛利方の諸城を次々と攻略していく。同年4月、高松城攻めが開始される。

高松城は深田や沼沢といった沼地に囲まれ、水面との比高は4mしかないため人馬は進み難い要害であった。低湿地を利用した高松城は難攻不落であり、清水宗治は3,000～5,000余りの兵で籠城した（毛利の援軍は5万）。

秀吉は宇喜多勢の1万を含む3万の軍勢で高松城を包囲するが、2度の攻撃に失敗し、攻城戦は持久戦となった。5月、黒田孝高の献策により堰堤（えんてい）で城を囲み、「備中高松城水攻め」が開始される。宇喜多氏の家臣・千原勝則を奉行とし、12日間で3Kmもの堤防を完成させる。梅雨の時期と重なり、増水した足守川の水を流し込むことで高松城は水没した。188ヘクタールの大湖水ができたという。そして羽柴秀吉は信長を招く準備をしていた。

高松城本丸に置かれていた「高松城水攻めの図」。石井山の秀吉本陣から見たイメージ図とのこと。赤い印のところが秀吉軍、青い印は援軍の毛利軍。

秀吉勢と毛利勢の布陣図

初め秀吉は高松城から2Km離れた龍王山（現在の最上稲荷）に本陣を構えていた。現在、日蓮聖人像が建っている場所が秀吉本陣（一の丸）とされる。高松城の防戦に攻めあぐんだ秀吉は黒田官兵衛の献策により「水攻め」を決断し、本陣を石井山に移した。

前哨戦：冠山合戦

まず高松城攻めの前哨戦として冠山城にて合戦が行われた。標高40mほどの独立丘陵地である冠山城は、秀吉勢2万と宇喜多勢1万に囲まれた。毛利氏家臣で冠山城主の林重真は3600の兵で、宇喜多忠家や杉原七郎左衛門らと戦った。落城すると城主は自刃。将兵139人は討ち死にまたは自刃して果てた。冠山合戦では加藤清正の一番槍の功名が伝えられている。

冠山城の北2km先には乃美元信が守る宮路山城がある。乃美元信は乃美宗勝（毛利氏・小早川氏の家臣）の弟と考えられている。冠山城が落城すると和平交渉が行われ、宮路山城は開城に至った。

水攻めの堤防

高松城水攻めの堤防は3Kmほどで、備中高松駅から足守駅の距離くらい。水攻めにおける堰堤址（蛙ヶ鼻築堤跡）が残っている。高松城本丸の標高が7mなのに対し、現存している蛙ヶ鼻築堤跡は8.4mあるとのこと。

図では途切れているが築堤の北端は足守駅よりもう少し先にあり、標柱が建てられている。標柱には、「この付近から足守駅南まで約400mの副堤を築いた」と書かれている。このあたりが水引入口となっている。

籠城が1ヶ月余りを経たころ、1582年6月に本能寺の変が起こり高松城水攻めは頓挫する。秀吉は「本能寺の変」を秘めたまま、毛利方の軍師・安国寺恵瓊を仲介役に和議を成立させる。毛利の領土を取らない、5千の城兵助命を約束し、引き替えに清水宗治を切腹させた。6月4日午前10時、清水宗治は湖上に船を漕ぎ出し、秀吉から贈られた酒肴で宴を張り誓願寺の曲舞を舞い、辞世の句を詠み46歳にて自刃した。秀吉は主君の仇敵、明智光秀と戦うため、ここから「中国の大返し」を行うこととなる。

高松城城郭

石垣は築かれず土塁によって築城された高松城。備中国に通じる平野の中心地であり、板倉宿から備中松山城へ至る要衝の地にある。地名に名残があるように沼沢が天然の外堀を成していた。一辺50mほどの方形の本丸を中核とし、堀を隔てて同規模の二の丸が並ぶ。三の丸と家中屋敷がコの字になって主郭を囲む形態をとっている。ただ3,000～5,000余りの兵で籠城するには規模が小さい気もする。

本丸跡は江戸時代初期に陣屋として活用されていた。明治末に清水宗治の首塚は本丸跡に移転改装された。北西の家中屋敷跡の一画には胴塚が残されている。清水宗治自刃の後、首級なき胴体遺体は舟上のまま本丸に帰ってきて、高松城池の下丸に葬られたという。（池の下丸と胴塚の場所が違うのはなぜだろうか？？）。宗治を介錯した国府市佑はその墓穴を臨んで、己の首を切り、そのまま落ち込んで主君後を追ったという。

舟橋

史跡ふなはし（舟橋）は南手口。もともとは具足の武士がギリギリすれ違う程の細い道であったが、開戦直前に八反堀を造成し外堀とした。そこへ進攻の際は舟を並べて舟橋を利用し、防衛の際は舟を撤去する仕組みが取られた。三の丸まで堀の長さは約64mあったそうだ。南はこの舟橋、北には押出式の橋が架けられていた。

三の丸

三の丸は南口であり、堀に舟を並べる舟橋により城外と結ばれていたと伝わる。発掘調査で堀や井戸が確認されている。現在では水攻め図案内盤が設置されている。。

清水宗治自刃の地

1600年の関ヶ原合戦後、秀吉軍に属した宇喜多氏の重臣（後に徳川氏家臣）、花房職秀（後に職之）が領主として治めるようになるが、高松城の三の丸に位置する場所に花房家の菩提寺として高松山（こうしょうざん）妙玄寺を建立した。ここは清水宗治の自刃の地と伝わっており、宗治に敬意を表し歴代住職が供養してきた。境内の供養塔は昭和38年に建立された。妙玄寺は「水攻寺」とも称される。

水上の舟において切腹したのは、清水宗治、月清入道（出家前は清水宗知で宗治の兄、通称は六郎兵衛）、末近信賀（小早川隆景の家臣で援将）、難波宗忠（宗治の弟）の順。清水宗治の家臣の国府市之允（市正 / 市佑）が4人の介錯を務めた。秀吉は「宗治は武士の鑑である」と絶賛したという。

妙玄寺の南30m先に「ごうやぶ遺跡」があり、かつての三の丸総門の脇に位置する。清水宗治の舟を追い、家臣（月清の馬の口取興十郎、宗治の僕・七郎次郎）が刺し違えて一足先に殉死した所と伝わっている。

二の丸

二の丸は本丸とほぼ同規模であったされるが、発掘調査がされておらず詳細は不明。田んぼが一面に広がっている。さらに奥の家中屋敷跡でも田んぼが広がっている。

宗治蓮（蓮池）

二の丸と本丸に面する蓮池は堀跡のようだ。ここには蓮池という地名が残されており、歴史公園造成計画によって沼を復元した際、400年余り地下に眠っていた蓮が自然に生えたという。

二の丸と本丸の間の堀。

本丸

本丸跡では、1600年の関ヶ原合戦後、徳川氏の旗本（花房職秀）が陣屋として活用しした。

明治末に移転改装された、清水宗治の首塚。

岡山市教育委員会による本丸イメージ図。

最上稲荷～秀吉が最初に本陣を置いた龍王山

秀吉が最初に本陣を置いた龍王山こと最上稲荷（さいじょういなり）（正式名称：最上稲荷山妙教寺）は高松城攻めにより荒廃していたが、領主となった花房職之によって再興された。日蓮宗に帰依していることから、領内の寺院を日蓮宗に改宗された。なお、妙教寺の住職が妙玄寺（花房家菩提寺）を兼務していることから、妙玄寺は「最上稲荷高松城支院」と称している。最上稲荷の仁王門は、明治時代に妙玄寺から移築されたものであるが、昭和25年に山火事で焼失している。

最上稲荷大鳥居大鳥居。今回は最上稲荷に参拝してないので、備中高松駅近くにある大鳥居だけ拝見した。